2014年1月15日水曜日

アンティーク・ガラス用語豆辞典 《ア行》

パリは少し寒くなってきましたが、毎日雨ばかりでこの冬まだ一度も雪が降っていません。つまらないです。

今年はピアノに復帰することを決意、というほど大げさなものではないけれど、数日前より少し弾き始めました。
3年ほど前から右手の小指の第一関節が腫れて変形し、痛むのでピアノを休んでいたのですが、やっとこの頃ほとんど痛まなくなったので再開し、慣らし運転中です。
あまりに長い間弾かなかったせいで、得意の筈のレパートリーを弾こうとしても脳内では音楽を再生しているのに指が全然動いてくれない状態に『エェー?私ってピアノ弾けなかったんだっけ?』と疑ったほどでしたが、しどろもどろ触っているうちに縺れた糸が少しずつほどけていくように指が思い出していくのが不思議です。

もう一つの事始めとしては、アンティーク・ガラス豆百科の一環として用語集を編纂し始めたことです。
これがまた、簡単そうに思えたのに始めてみるとけっこう大変!完成してから公開するつもりでしたが、溜めておいて誤って消してしまったり(こうゆう愚行をやりがちな人ですから)しては悔しいので、出来次第UPすることにしました。
日本語表記のアイウエオ順で、まずは《ア行》を掲載します。画像は必ずしも典型という訳ではなく、一例としてご覧いただければと思います。

画像はクリックすると拡大でご覧になれます。

アイス・クラック  ice crack
吹きたての熱いガラスを水に一瞬入れて表面に氷が割れたような亀裂を作り、それを焼き戻し氷裂文を模様として残す技法。16世紀のヴェネチアンからアールデコ、現代の作品にも見られる加飾技法。

アシッド acide(エッチング・ 酸化腐食彫り)
acideとは酸のことだが、フランス語のgravure à l'acideグラヴュール・ア・ラ・(ア)シッド(酸によるグラヴュール)を略した用語。フランスのアール・ヌーヴォー、アール・デコの作家が多用した技法なので、このジャンルの作品について使われることが多い。フッ化水素酸と硫酸の混合液にガラスを浸し、酸で腐食させて表面を削ったり、荒らしたり、凹凸を付けたりする。彫らずに残す部分には酸に侵されないワックス系の保護膜を事前に塗布したり、全体に膜を塗布してから彫る部分を削り取ったりなどしてから酸に浸し、彫る深さに応じて浸す時間を調整する。銅版画の技法をガラスに応用したもので、エッチング、また日本語的に酸化腐食彫りともいう。

アンテルカレール intercalaire
挿入されたという意味のフランス語。透明もしくは半透明なガラスの層の間に色ガラス片やエナメル彩で描かれた模様をサンドウィッチのように挟み込んで溶着させ、表面から見た時に奥行を感じさせる装飾技法。Daumドームが特許を取得した技法で、最も芸術的で重要な作品に用いられた。


アプリカシオン application(アップリケ)
本体のガラスの表面に、溶けたガラスの小塊を色々な形に溶着する技法。貼付するという意味のフランス語で、日本ではアップリケともいう。

イリデッセンス iridescence(ラスター彩・虹彩)
元来はメソポタミアで陶器の釉薬として使われたラスター彩のガラスへの応用。金、銀、銅、鉄などの金属酸化物を熱いガラス素地に塗布し、ガラス表面に金属の薄い被膜を焼き付ける技法。焼成後のガラスは真珠母のような玉虫色の虹彩を放つ。ラスター彩、虹彩ともいう。ティファニー、レーツなどアール・ヌーヴォーのガラスに多用された。

色被せガラス(被せガラス・オーヴァーレイガラス)
素地になるガラスの上に異なる色のガラスやクリスタルを被(き)せて溶着した多層ガラス。2層から数層重ねたものまである。被せたガラスを部分的にカットやエッチングやグラヴュールで削り取り、他色や無色透明の層を露出させ、色や深さの対比を利用して表現する装飾技法。単に被せガラスともいう。またタイプが限られるがオーヴァーレイともいう。


インタリオ intaglio
陰刻、沈め彫り(または沈み彫り)された工芸品を意味するイタリア語。インタリオに対して浮き彫りされたものはカメオと呼ばれる。ガラスの場合、裏から陰刻されたものを表から見るとガラスの中に立体が封じ込められたように見える。陰刻の技法は手彫り、サンド・ブラスト、型押しなどがある。

ヴィトリフィカシオン vitrification
Daumドームが特許を取得した一種の簡易な色被せガラス技法。色ガラスの砕片や粉を溶解している吹きガラスの表面にまぶしつけ、それを再加熱して素地に一体化させる作業を繰り返し、多色を斑文状に重ねて微妙なニュアンスを作り出す。ドーム作品の多くは、この上に更にエッチングやグラヴュールで表面にレリーフ状の図柄をほどこしたり、アプリカシオンを加えたりしている。

ウラン・ガラス uranium glass(ヴァセリン・ガラス)
ガラスの原料に着色剤として極微量のウランを混ぜたもので、紫外線ランプ(ブラックライト)を照射すると緑色の蛍光を発する。自然光では薄い黄色から黄緑色、オレンジ色、ピンク色、水色などの透明から半透明のトロリとした色調のものが多い。中には不透明な加工をしたものもあるが、代表的なのは半透明な黄色で、このテクスチャーがヴァセリンクリームに似ているというので、アメリカではヴァセリン・ガラスとも呼ばれる。

エッチング etching →アシッド

エナメル彩(エマイユ)
ローマ時代に開発され、イスラム・ガラスで最高潮に達した加飾技法。色ガラスを粉砕して作った粉末顔料を溶き油で練り、ガラス器の表面に着彩し、低い温度で焼き付ける。顔料が溶けると同時に本体のガラス表面もかすかに溶けて両者が一体化するので、半永久的に剥落や変色しない絵付けができる。エナメル顔料には透明顔料、不透明顔料、ラスター顔料の他に金泥、銀泥や金、銀、プラチナの溶解液がある。ジャポニズム、アール・ヌーヴォー、アール・デコのガラスにも多用された。エマイユ(フランス語)ともいう。


エングレーヴィング engraving(グラヴュール)
広い意味でガラスに彫刻を施すことを指すが、主にホィール・エングレーヴィングのことをいう。もともと水晶彫りに使われていた技法で、大きさや形状の異なる各種の銅円盤(グラインダー)を回転させてガラスの表面に図柄を彫刻する。グラインダーを使い分け、緻密で繊細な表現が可能。制作には高度な職人芸と時間を要する。グラヴュール(フランス語)ともいう。因みにホィール・エングレーヴィングはフランス語でグラヴュール・ア・ラ・ルーという。

オパルセント・グラス opalescent glass(オパレソン)
ガラス原料の中にリン酸塩、フッ素、酸化アルミニウム、灰、石灰などを混ぜ、成形時に急冷、再加熱をして得られる半透明な乳白ガラス。コバルトを加えて青を帯びたブルー・オパルセントが一般的だが、黄色やピンク色を帯びたものもある。多くの場合ガラスの肉厚部分が乳濁度が高く、薄い部分は透明度が高い。古くは1500年頃のヴェネツィアンガラスに既に見られるが、19世紀末から広く使われ出した技法で、1920~1930年代に最も多用された。オパールのようなという語源が示すように、光を透すと淡い虹彩を放つ。ルネ・ラリック、サビノ、エトリングなどの作品が特に知られている。

オパリーヌ opaline(オパリンガラス)
ガラス原料に色々な金属酸化物などを混ぜて作った半透明から不透明な色(白も含む)ガラス。16~17世紀のヴェネツィアンガラスに既に見られるが、一般にオパリーヌと呼ばれるのは19世紀以降のものを指す。1800年頃からフランスのバカラ、サン・ルイ、ル・クルゾの三大クリスタルリーが作り始めた『オパール色のクリスタル』が初期のオパリーヌとされる。発想は陶器や石を模倣したガラスで、オパールのような半透明で虹彩を帯びた白、白磁のような不透明な純白、トルコ石のような青、翡翠のような緑、紫陽花色と呼ばれた半透明なピンクなどで花瓶、宝石箱、香水瓶などの高級装飾品がオパリーヌ・クリスタルで作られた。19世紀半ばから世紀末にかけて一般化し、セミクリスタル製、ガラス製、型成形のものなどが量産された。オパルセントガラスと混同されがちだが、全く異なる。真っ白なものはミルクガラスともいう。

オーヴァーレイ overlay glass
広い意味では全ての被せガラスをオーヴァーレイ・グラスと呼べないこともないが、アンティーク・ガラスの世界では在るタイプの色被せガラスを指す。被せるガラスの層が厚く(主にオパリーヌ)、それにカットで窓を開けて透明と不透明、色のコントラストなどを目立たせ、多層ガラスであることを強調したリッチなスタイルの色被せガラスのことである。
19世紀の装飾的なボヘミアン・ガラスが典型的な例だが、19世紀後半のバカラやサン・ルイにも見られる。





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