2020年6月16日火曜日

ラリックのガラス《その2》サインについて

6月2日からイル・ド・フランス(パリを中心とした8県からなるいわゆる首都圏)を除くフランス全土でレストランやカフェの営業が解禁になりました。
イル・ド・フランス(我家も圏内)は、テラス席つまり屋外に客席を設けられる店のみ解禁とあって、テラスのあるレストランは?などと探っているうちに天気が悪くなってしまいガッカリです。閉鎖中は素晴らしいお天気が続いていたのに…。
監禁令が解除されたら豪勢にやろうとオアズケになっていたOと私の二人分の合同誕生会のお出かけもまた暫く延期です。
…と、ここまでは数日前の話でして、昨日マクロン大統領のテレビ演説できょう6月15日からイル・ド・フランスもレストランやカフェが全面的に解禁との発表がありました。わ~い‼
さて、ラリックの勉強会の続きをいたしましょう。今回はサインについてです。

サインは、ラリックのガラス製品を買う時の重要な注意点の一つです。
同じモデルでもサインがルネ・ラリック (ラリック存命中のオリジナル)か ラリック・フランス(ラリック没後の復刻品)かによって価値が分かれます。
価値観は人によって違うと思いますが、ここではアンティックとしての価値を意味し、当然ですが価格に差が表れます。
品物の状態や希少度にもよりますが、アンティック市場ではオリジナルは復刻品の2~4倍高いです。
一般市場では復刻品でも新品はそれなりに(時にオリジナルよりも)高価ですが。

ラリックの場合、古さによる稀少性だけではなく、型の精度による仕上がりの違い(オリジナル品に比べて復刻品は悪く言えばのっぺり、良く言えばソフト)、パティネやサティネなど表面加工によるニュアンスの違い、などもオリジナル品の価値を高めていると思われます。
因みにガラス製品としての品質という点では、復刻品や現代ラリック製品の方がルネ時代の製品よりはるかに上回っています。

カタログ・レゾネのサインのページ

2ページに渡ってラリック存命中のオリジナル品に見られるサインの種類が説明付きで掲載されております。
フランス語の説明文の下に青字で和訳を書き込みました。(画像をクリックして拡大でご覧ください)


ルネ・ラリック(存命中)のサイン

一部を除いて私が実際扱ったラリック作品のサインの写真を掲載しました。
物によってサイン部分の撮影が難しく、不明瞭なものもありますが、ご容赦ください。
しつこいようですが、クリックでもう少し大きな画像がご覧になれます。

型によるサイン。陽刻、陰刻、反転文字、彫りでフランスを添えたものなどあります。

グラインダーによる手彫りのサイン

ステンシルとサンドブラストによるサイン

ラリック・フランス(ルネ没後、1945年以降)のサイン

ルネ・ラリックの没後(同時に第二次世界大戦の終戦後)の1945年から現在までのラリック社のサインです。
戦後間もない時期のルネによるモデルにはR.LALIQUE FRANCEのステンシルから《 R.》の部分だけとりあえず除いたサンドブラストのサインが見られます。
こうしたオリジナルと変わらない戦後初期の製品は、後の復刻品より高く評価されます。
CRISTALの文字が入ったサインもまた比較的初期の復刻品に見られるサインです。

1945年から1979年までのサイン

1980年以降のサイン。〇にRのレジスターマークをRenéのRと混同してはいけません。

現代ラリックの特殊なサイン。香水やジュエリーのメーカー用特注品など

贋物のサイン

実は個人的には見たことがないのですが、ラリックの贋物はけっこう出ているようです。
下の画像はインターネットで検索したものを拝借したのですが、型のサインなどはパッと見には騙されそうですね。
良く見ると字体が微妙に違っていたり、字間のスペースが違っていたり、怪しげなところが見えてきます。
騙されないためには、本物のモデルを熟知していることが良いに決まっていますが、なかなかそうもいきませんので、さほど多くない本物のサインを上の画像などから眼に、頭に、焼き付けておくのがよろしいかと…。
さすれば、贋物のサインを見た時に違和感を感じ、怪しいからやめておこう、ということになるのでは?



2020年6月7日日曜日

ラリックのガラス《その1》ブランド、カタログレゾネなど

新型コロナウィルス感染症Covid-19対策で、フランスは3月17日正午から5月11日まで外出禁止令が布かれ、家から一歩でも外に出る時は必要最低限の外出であることを証明する書類(電子版も可)を持たなくてはならなかったし、11日解禁後も自由に動けるのは家から100Km圏内のみと制限されていましたが、6月2日からそれも解除されて漸く足枷が外されることになりました。
もともと在宅ワークのアンティック姉妹社としては普段とそう変わらないのですが、仕入れに行けないのと荷物の発送ができない(危なくて)のが問題でした。
お客様も自粛ムードが浸透していた模様で少なかったですし…。
個人的にはレストランで食事ができないというのが最も残念な事でした。
閑だったのですからブログをまめに更新できる筈なのに、Café 姉妹社まで何となく自粛(?いや、ただのサボリでしょ)してしまいました。
遅まきながら、お正月に思いついたラリック特集記事の連載をスタートさせようと思います。
ラリック初心者の方、もっと知りたい方、そして私自身のためにも、一緒にお勉強いたしましょう。
【注】本文中のオレンジ色の文字をクリックすると、参照項目にリンクします。

さて、まずはラリック LALIQUE というブランドについて

言うまでもありませんが、LALIQUEはブランド創始者のRené Lalique ルネ・ラリックの苗字で、例えばバカラやサン・ルイのような地名由来のブランド名ではありません。(念のため)
LALIQUE社の設立はルネ・ラリックがパリに初めて宝飾品のアトリエを開いた1885年に遡ります。
ガラス製品のブランドとしてのラリックは、ルネ・ラリックが宝飾家を廃業してガラス製作者に転身した1913年に先立つ1909年頃、パリ近郊のコンブ・ラ・ヴィルに既存したガラス工場を借りて量産を始めたのが創業期と考えられます。
1913年からは借りていた工場を買い取って本格的に事業を開始し、第一次大戦による休業も乗り越えて大いに発展を続け、1919年にはアルザスにも工場を開設、1935年にはパリの一等地ロワイヤル通りに店舗(現在の本店)を構え、ルネ・ラリック没年の1945年まで≪R.LALIQUE≫ブランド即ち本人によるプロデュースが続きました。
ルネの死後1945年から1977年までは息子のマルクが後を継ぎ、ブランド名は≪R≫を除いた≪LALIQUE FRANCE≫ または短期間のみ≪LALIQUE CRISTAL FRANCE≫に変わりました。
マルクは父ルネがプロデュースしたモデルの一部を引き継ぐ傍ら、独自の新しいモデルをプロデュースしたり、ルネ時代の製品は主にガラス素材だったのをクリスタル素材に変えたり、彼なりのアップグレードやリニューアルを試みたようです。
マルクの死後1977年からは彼の娘つまりルネの孫にあたるマリークロードが引き継ぎ、1996年までメゾン・ラリックのクリエーションディレクターとして製品をプロデュースしました。
1994年にフランスのクリスタルメーカーPochetが会社を買収、2008年からはシルヴィオ・デンツ率いるスイスのArt & Fragrance社がメゾン・ラリックを経営、現在はLALIQUEグループとして多くの海外支店を擁する他ミュージアム、ホテル、レストラン、ワイナリーなど手広く事業を展開しています。

カタログ・レゾネについて

ルネ・ラリックのガラス作品について語ったり解説したりする時にしばしばカタログレゾネ(日本の業者さんは単にレゾネと言ったりもする)という言葉が出てきますが、catalogue raisonné とは総作品目録のことです。
ラリックのカタログレゾネはFélix Marcilhac(今年1月に78歳で急死したフランスの骨董商、鑑定家、コレクター、歴史家。アール・ヌーヴォーとアール・デコのオーソリティーとしてフランス骨董界の著名人)が編纂した大型本で、ルネ・ラリック存命中のガラス作品がジャンル別に分類されて網羅されております。
1989年に初版が出て、その後3回改訂版が出ています。
日本国内での入手は難しいかも知れませんが、欧米の通販サイトなどで購入可能です。

1994年版。厚さ7cm、縦横32cmx25cmぐらい。とても重い。

黒カバー1989年版、赤2004年版、緑2011年版

 
内容はこんな感じ

簡単なモノクロ写真、作品番号、品目、タイトル、創作年月日、技法、サイズ、ヴァリエーション、製品カタログ掲載年、復刻版の有無などが箇条書きに記載されております。

アンティック姉妹社のショップに出品しているラリック作品の詳細ページに資料画像として掲載しておりますのは、上記のようなページをスキャンしたものから抜粋、編集しているのです。
因みに1994年版をばらして(重いので)使っており、2004年版を別に持っております。
この本には上の画像のような目録だけではなく、ルネ・ラリックの詳細な年譜や、技法の解説、代表的な作品の写真や、サインについてなど役に立つ記事がたくさん載っています。
アンティック業者は勿論、ラリックコレクター必携のとても有難い本です。

次回は、サインについてのお勉強です。お楽しみに!