18世紀に建てられた教会らしいのですが、中は改装されて何ら見るべき所もない簡素なものでしたが、ステンドグラスの効能に今更ながら気付かされました。その日は小雨もぱらつく曇天だったにもかかわらず、大したこともないステンドグラスを通す外光は思いのほか明るく、赤や青のガラスが色鮮やかに素っ気無い教会の中に光と彩りを与えているのです。
外から見るとステンドグラスが嵌っていることさえ気付かない黒っぽいだけの窓なのに、不思議です。
普通の透明なガラスであったなら、中からはきっと曇り空の陰鬱な灰色が見えただけでしょう。
ステンドグラスって誰が発案したのか知らないけれど、凄いアイディア、と認識を新たにしたのでした。
【ボヘミアン・グラス】17世紀から19世紀まで
ボヘミアといわれても漠然と東欧という認識し持っていなかったのは私だけでしょうか?
地理的には現在のチェコ西部から中部にあたる地方を指し、歴史的には古代よりローマ、ドイツ、ルクセンブルグ家、ハプスブルグ家など色々な勢力に支配されてきた土地だったのですね。
この地でガラスが作られ始めたのは古く、9世紀頃からといわれますが、本格的にガラス産業が始まったのはプラハが神聖ローマ帝国の首都とされ、中部ヨーロッパの文化の中心となった14世紀以降、更なる発展を見せたのはハプスブルグ家のルドルフ2世が神聖ローマ皇帝として在位した16世紀末からといわれます。
この王様はたいへん教養に富み、学問や芸術を擁護し奨励した文化人であった為、多数の優れた芸術家や学者が集まり、プラハは大いに文化的繁栄を遂げたのでした。ボヘミアン・グラスを世界的レベルに発展させたのもこのルドルフ2世だったと言われます。
16世紀以前のボヘミアン・グラスはヴァルトグラス(森林ガラス)と呼ばれる類の素朴なレーマー杯やフンペングラス(大ジョッキ)などドイツ風なものが多く、16世紀から17世紀にかけてはヴェネツィアン・グラスの影響下にあり、スタイルも装飾技法もヴェネツィアン・グラスのそれを踏襲するものでした。
しかし、16世紀末にカリ・クリスタルが発明されてからのボヘミアン・グラスは、ヴェネツィアのクリスタッロを遥かに凌ぐ透明度とグラヴュールやカットに適した強度を得たことにより、独自のガラス工芸技法やスタイルを発展させてゆき、17世紀後半から18世紀にかけてはヴェネツィアを越えてガラス界の王座を獲得し、ボヘミアン・グラスの名を世界に轟かせたのです。
この隆盛期のボヘミアン・グラスには、ゴールドサンドウィッチと呼ばれる金箔や銀箔による切絵を二重の透明クリスタルで挟んだものや、シュヴァルツロットと呼ばれるカットグラスに繊細な黒エナメル彩をほどこしたもの、グラインダーによる精緻なグラヴュール彫刻をほどこしたものなど、格調の高い名品が多く見られます。
19世紀は衰退期に入り、ヴェネツィアン・グラスがボヘミアンに奪われた人気を取り戻そうと悪あがきをして品格を落としていったのと同様に、イギリスで発明された鉛クリスタルの勢力に負けまいと必死になるあまり派手な色ガラス製品を多く作るようになったと言われます。
この時期の代表的なものに、赤や黄色で表面を着色した無色ガラスにグラヴュールで鹿の絵や景色をグラヴュールした2色の花瓶や燭台、またオーヴァーレイと呼ばれる透明ガラスと乳白ガラスや色ガラスを何層か被せ重ね、カットで窓を空けたり、更にエナメル彩やグラヴュールを施したりする装飾的なガラス器があります。
こういった技法は現代のボヘミアングラスにも継承されていますが、19世紀のものは高い技巧と芸術性があり、現代ものとは美しさも値段も格段に違います。
画像はパリ装飾芸術美術館、コーニング・ガラス美術館、石川県立美術館、ヤブロネツ(チェコ)ガラスとジュエリー美術館、クリスティーズ・オークション、ギャルリー・アテナなどのサイトより拝借しました。画像の下のリンクをクリックすると、オリジナルページにジャンプし、詳細な画像や説明がご覧になれます。
《17世紀》
狩猟文エナメル彩フンペングラス 花文グラヴュールのクップ グラヴュール二段式ゴブレット カット・グラヴュールのタンブラー |
《18世紀》
左からプライスラー作カット・グラヴュール+エナメル彩バッカス文酒瓶 カット+グラヴュール+フィリグラネ+金箔入りシノワズリ文グラス グラヴュール+エナメル彩オパリーヌのジョッキ(上) 金銀箔サンドイッチのタンブラー(下) プライスラー作シュヴァルツロット彩グラス |
《19世紀》
左からカット+クリスタロセラム+透明エナメル彩香水瓶(Harrach製) カット+グラヴュール天使文タンブラー オーヴァーレイ+グラヴュールのタンブラー(上) カットウランガラスの蓋物(下) 胴赤着色+グラヴュール鹿文花瓶 |
《19世紀のオーヴァレイ作品》
19世紀中頃(左) 19世紀末(右) CHRISTIE'S Parisオークション 2005年6月30日のカタログより |
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