昨日は9月末のブログで紹介したCHATOUの大骨董市に行って参りました。
朝寝坊をして出遅れ、こりゃ駄目だと思いきや、現地に着いたら絶妙なタイミングで理想的な駐車場所を確保でき、その後トントン拍子にお宝をゲットしました。
雪が残っていて寒かったし、滑ったり靴がグショグショになったりもしましたが、珍しい物を安く入手できて意気揚々と帰宅したのでした。滅多にないラッキーな日でした。
【ヴェネツィアン・グラス】16世紀から19世紀まで
イタリアやフランスでは専ら『MURANOガラス』と呼ばれておりますが、ヴェネツィアン・グラスはヴェニスのムラノ島で制作されたガラスのことです。
その歴史は古く、東地中海貿易によって栄えた海洋国家ヴェネツィア共和国(7世紀末~18世紀末)が東方貿易を独占していた13世紀頃、その貿易品の中でも特にヨーロッパ諸国に珍重されていたガラス製品を自国で生産して更なる利益を得ようと企画し、当時最も進んだ技術を持っていたアンティオキア(シリア)から原料や燃料、ガラス職人まで輸入し、首都ヴェネツィアにガラス産業を興したのが起源とみなされています。
こうしてローマ、イスラムと発展してきたガラス製造技術がヴェネツィアに受け継がれ、応用されて更に発展を遂げていったのです。
しかし、元々自国にはガラスを作る原料や燃料が無く輸入に頼るしかない状況下、原料を豊富に持つ国々にヴェネツィアン・グラスの技術が流出してコピーを作られることを恐れた国家は、1291年に保護政策として強制的に全てのガラス工房をムラノ島に移し、ガラス職人やその家族をも島に幽閉し、脱出者には厳罰を処し、功労者には手厚く褒章を与えるという法令を発したのです。この政策によって狭い島に密集した同業者は互いに技術を競い合い、ガラス工芸の水準は益々高まり、数々の名品が生み出されていったという訳です。
ルネッサンス期(15~16世紀)にその繁栄は頂点に達し、ヨーロッパ諸国の王侯貴族たちの間でヴェネツィアのガラス器やシャンデリアや鏡などを使うことが流行し、ヨーロッパからヴェネツィアへどんどんお金が流れていくのを各国の君主が黙って見過ごすはずもなく、密かに職人を引き抜き自国に呼び寄せ、独自のガラス産業を興すべく画策したのです。
こうして島外不出の筈だったヴェネツィアン・グラスの秘法も徐々に各国に伝わってゆき、各地でファソン・ド・ヴニーズ(フランス語でヴェニス式という意味)と呼ばれるガラスが作られました。
因みにヴェルサイユ宮殿の有名な『鏡の間』はムラノ島から連れ出された12人の職人によって作られたといわれます。
ヴェネツィアン・グラスは、鉛を含まないソーダ石灰を使用し、そこに色々な鉱物を混ぜることで様々な色ガラスを作り出しました。そして宙吹きによって極薄に仕上げる技法や、溶けたガラス種を細く伸ばして飴細工のように鳥や花や竜などのモチーフを造形し、器本体に溶着させて複雑な装飾をほどこすなど数々の高度なテクニックが用いられました。
この他にもクリスタッロ(水晶のように透明なガラス)、エナメル彩、金彩、レースガラス、ミルフィオリ、モザイク、アイスクラック、ダイヤモンドポイントによるグラヴュール等々現代用いられているガラスの装飾技法の殆ど全てがヴェネツィアで完成されたと言えるほど、多様な技法やスタイルが編み出され、精緻を極めたヴェネツィアン・グラスはヨーロッパ中を魅了しました。
17世紀になってカリ・クリスタルを開発したボヘミアン・グラスに王座を奪われ、またイギリスで発明された鉛クリスタルの勢力にも押され、衰退の一途をたどることになりますが、そのスタイルは根強く尊ばれ、模倣され続けたことは19世紀から20世紀にかけてのフランスのクリスタルリー各社(バカラ、ドーム、クリシーなど)の製品を見ても明らかです。
《16世紀》
エナメル点彩蓋付ゴブレット 船形水差し(上) ダイヤモンド・ポイント彫りコンポート(下) エナメル彩グロテスク文ゴブレット |
《17世紀》
羽根文ゴブレット 黄白レース・グラス樽形酒壷 アプリカシオン装飾の水差し |
《18世紀》
エナメル彩オパリーヌのカップ&ソーサー レース・グラス蓋付ゴブレット レモンのオーナメント メノウ文カップ&ソーサー |
《19世紀》
花装飾モザイク鏡 宙吹きアプリカシオン装飾の蓋付壷 宙吹きアプリカシオン装飾のわらび形脚コンポート |
《19世紀フランスのヴェネツィア風ガラス》
左から...DAUMコート・ヴェニシエンヌ(ヴェニス風縞目)のグラス BACCARATグラス"BEAUVAIS"(ボーヴェ)天皇家御用達モデル CLICHYダイヤモンド・ポイント彫りコンポート Eugène ROUSSEAU型吹きアプリカシオン装飾蓋付ゴブレット |
画像は大英博物館、コーニング・グラス・ミュージアム、ROSE de CLICHY、パリ装飾芸術美術館、箱根ガラスの森美術館のサイトより拝借しました。(ほんの一部私のコレクションも...)
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